魅せるテクスチャリング術

皆さんこんにちは。
アプリボットのエンバイロメントアーティストの香取です。

業務では背景全般の制作を担当するほか、学生向け、社内向け講座の講師やインターン生などの若い世代の教育にも注力させていただいております。

TwitterやArtstationにはパーソナルワークも載せていますので、ご興味をもっていただけたら幸いです。

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今回は、CGアーティストであれば誰しもよく使用するテクスチャリングツール「Adobe Substance 3d painter(以下SP)」について書かせていただきます。ただ、詳しいツールの使い方は公式の方が豊富なので、主にアーティストとして本質的に大切な内容について触れつつ、SPについては便利な機能紹介程度にとどめさせていただきます。

便利なツールの落とし穴

SPはとても便利なツールで、簡単に「(悪い意味で)それっぽいテクスチャ」ができてしまいます。テクスチャリングを行った本人すら気づかないうちに「それっぽい」と満足してしまうこともあるでしょう。ツールを使いこなしているというよりは、ツールにのまれているイメージです。ツールに自身の限界点を決められているような・・・。

前置きが長くなりましたが、今回はこちらの「Sci-Fi Tractor」というパーソナルワーク内の近未来のトラクターを例に解説していきます。作例はPBRのフォトリアルですが、どのようなテイストの場合でも考え方は共通するはずです。

Sci-Fi Tractor

テクスチャの重要性

下の2つの画像は同じトラクターのモデルに異なるテクスチャを反映させたものです。

左の画像は、リファレンスなどを何も見ずに、SPのSmart Materialを割り当てて少し調整しただけのものです。いわゆる「それっぽいテクスチャ」です。

右の画像は、リファレンスをしっかりと観察し、どのような汚れや傷などを入れるかを考えテクスチャに落とし込んだものです。クオリティーの差は明らかだと思いますが、このように全く同じモデル、同じライティングという条件でも、テクスチャが違うだけで見た目にかなりの差が出ることがわかると思います。つまりテクスチャは最終的な見た目に直結する、とても重要な役割を担っているということです。

それっぽいテクスチャ(左)と説得力のあるテクスチャ(右)

テクスチャリング思考法

SPのSmart MaskSmart Materialはとても便利な機能で、とくにSmart Maskは頻繁に使用します。モデルの角や溝に沿ったマスクがとても簡単に作成できるので、テクスチャリングがとても捗ります。しかし、現実にあるものを観察すると、物の形状や表面の素材によって汚れ方などは様々なので、これらの機能で作るのは「あくまで下地」と認識すると良いでしょう。

Smart Material(左)とSmart Mask(右)

便利な機能を下地として使い「それっぽいテクスチャ」で終わらないために、説得力のあるテクスチャリングをするにはいくつかの方法があります。

◎人について考える

まずは「人」について考えることで、テクスチャに対してどのようなアプローチができるのかを考えます。これはシーンにどのような人が生活しているかを考えるということです。この作例では、このトラクターを扱っている人がどのような性格であるかという点に主にフォーカスしています。物の扱われ方には人の性格の影響が大きく関わってくると思うので、性格を反映させるようにテクスチャリングをしています。

細かい設定は割愛しますが、このトラクターを扱う人が、面倒くさがりで、がさつなところがある性格で、あまりメンテナンスなどの整備を行わないというように設定しています。オイルの漏れなどが発生しても放置してあったり、汚れがひどく目立つようなテクスチャリングが感じられると思います。

ひどい油汚れ

また「人」について考えるときは性格だけでなく、人の「動き」=「アクション」についても考えましょう。アクションについて考えることで、新たなディテールを追加することができます。

左の画像のヘッドライトを見るとわかりやすいですが、この部分は他のパーツなどに比べて飛び出ているので、よく人がぶつかったり、何となくその部分に手を置いてみたりと、様々な人のアクションによって塗装がはがれやすくなるので、他の箇所よりも大げさに処理を施しています。

右の画像は、人が乗り降りするときのステップですが、このような箇所にも他の部分より劣化のディテールを激しめに入れてあります。人がよくぶつかったり、力を加えることで、その箇所のテクスチャのディテールは他の箇所とは異なるものになってきます。

ヘッドライト(左)と乗降用ステップ(右)の塗装はがれ

◎環境について考える

つづいては「環境」について考えることで、どのようなアプローチができるか考えます。環境といっても季節や時間帯、気温、天候など様々ですが、テクスチャリングにおいて最も考慮すべきは天候になると思います。この作品の主人公の「面倒くさがりな性格」とあわせて考えると、トラクターは雨ざらしの環境に置かれることが多く、サビが散見されるようなテクスチャリングになります。

また、天候のような自然的な事象からだけでなく、その物が扱われている環境についても考慮することが重要です。トラクターは土を耕すための「ロータリ」という機械を接続したり、肥料や農薬などの散布、草刈りなどの様々な作業に適した機械をトラクター後方に接続して使われるものです。したがって、下の画像のように後方には泥汚れのようなディテールを多めに入れてあります。

このように、現実世界においての扱われている環境から考えれば、架空のメカの場合でもテクスチャにディテールを落とし込み説得力をもたせることが可能です。

使用環境によるディテール

◎ユニークなディテールを入れる

つづいては「ユニークなディテール」についてです。こちらは唯一無二の独特なディテールを入れるという考え方です。全体的に同じような見た目で入っているディテールばかりでは、どうしてもCGっぽさがでてしまったり、SPの便利機能のみで完結させたような見た目になりがちです。画像の青丸内のような独特なアウトラインの錆びを入れるのはSmart Maskのみでは描くのが非常に難しいです。

ユニークなディテール

プロシージャルでは難しいような、説得力のある唯一無二のディテールを入れるには「Stencil」機能がとても便利です。自分で撮りためた写真素材をマスク素材として使えるので、「(CGとして)唯一無二」のディテールを表現できます。

マスク素材をStencilで使用する例

ここまで解説してきたことを頭に入れておき、そのうえでテクスチャでどのようなディテールを入れていくかを考えれば、ひたすら闇雲にディテールを入れていくことは無くなると思うので、ぜひお試しください。

PBR Metallic Roughness Workflow

つづいて、テクスチャリングの思考法とは別の角度から「説得力のあるテクスチャ」について考えてみましょう。ここからはPBR Metallic Roughness Workflowについて書かせていただきます。しかし、私自身もテクニカルな部分は詳しくないので、そんな方でも普通(?)のアーティストとしてこれだけは絶対に知っておくべき最も重要な内容に絞って解説いたします。

最も重要なことが何か、結論からいうと・・・物体の表面が「金属」なのか「非金属」なのかということです。

下の画像は、「非金属(仮にプラスチック)」のボールと「金属」のボールを並べたものです。CGで再現したものですが、実物と思っていただければと思います。

どちらも表面のRoughnessやBase Colorは同じですが、金属のボールは鏡のように周囲の環境の映り込みがとても強く入っているのがわかると思います。金属は鏡面反射率がプラスチックのボールに比べて非常に高いということです。

このように、金属と非金属では鏡面反射率や鏡面反射の見え方に大きな違いがあるのですが、他にも違いがあります。

鏡面反射のちがい

金属と非金属のスペキュラーカラー(ハイライト)の性質に着目してみましょう。それぞれのスペキュラーカラーを見てみると一目瞭然で、非金属のスペキュラーカラーでは環境光の色が強く表れていますが、金属のスペキュラーカラーではその物体固有の色が強く表れているのがわかります。

スペキュラーカラーのちがい

物体表面の見た目を決めるうえで金属であるか、非金属であるかというのは非常に重要な要素だということがお分かりになったかと思います。

あとは、SP上でPBRテクスチャを作成する際に、その物体表面が金属か非金属かを定義できれば、物理的に正しく見える、説得力のあるテクスチャが作成できるということになります。

◎Metallic Mapの存在意義

ここで登場するのがMetallic Mapです。Metallic Mapはその物体表面が、金属であるか、非金属であるかを1,0の範囲、つまり白黒のマップで表現して定義します。下の画像の青丸で囲った部分を例に見てみましょう。

この物体は主に金属で構成されており、その上に赤い塗装が施されている想定でテクスチャリングが行われたものです。Metallic Mapはマップの白い部分=金属、黒い部分=非金属として定義するものです。右の画像を見ると、赤い塗装の部分は黒=非金属、赤い塗装がはがれ下地の金属部分が見えている個所は白=金属であると定義されていることがわかります。

また、Metallic Mapはあくまで物体表面が金属であるか、非金属であるかを定義するマップなので、この例のように、物体自体の素材は金属でも表面はメタリック塗装ではなく非金属の塗装なので、塗装部分は非金属の値を入れてあるという状態です。

マテリアル表示(左)とMetallic Map表示(右)

さらに、Metallic Mapを作成する際にここで注意しなければならないのは、Metallic Mapに白でも黒でもないグレーの箇所を情報として持たせてよいかということです。語弊があるとは思いますが、PBRテクスチャを作成するにあたっては、この現実世界に存在するものは「一般的に金属であるか非金属であるかに別けることができる」という前提があります。グレーの情報を持たせること自体は可能ですが、それはつまりその物体表面が金属でも非金属でもないということを表していることになってしまうので、基本的には1,0以外の値は避けるべきといわれています。1,0以外の値を使用する場合は、その箇所の物体表面の状態がどのような状態なのかを考えて使用すると良いでしょう。

白=値1=金属、黒=値0=非金属、グレー=値0.5=???

このようにして、Metallic Mapを使用したワークフローにおいては、物体表面が金属であるか非金属であるかさえ定義すれば、私たちテクスチャを作成するアーティストが難しいことを考えなくても、内部的に物理的に正しく見えるように処理をしてくれているということになっています。

難しい部分をだいぶ省いたので、テクニカルアーティストの方が見ていないことを願っております。

まとめ

今回は魅力的なテクスチャリングを施すために「テクスチャリング思考法」「PBR Metallic Roughness Workflow」の二つについて書かせていただきました。
上記の内容を意識すれば、誰でも素晴らしいテクスチャリングができることでしょう!

しかし、エンバイロメントアーティストとして考えなければならないことは、テクスチャリング以外にも山ほどありますので、それはまた機会があれば別の記事で・・・!


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